両手取引(りょうてとりひき)とは、ひとつの不動産会社が、売主と買主の両方を仲介することです。「両手仲介」「両手」ともいいます。
売主から物件の売却を依頼された仲介業者が、買主を見つけて取引をすることで発生します。
これに対し、売主と買主のいずれかのみを仲介することを「片手取引」といいます。
目次
両手取引の仕組み
両手取引の仕組みを理解しやすいように、「片手取引」と比べながら説明しましょう。
仲介業者が物件の仲介によって報酬を受けとるパターンは2つあります。
「片手取引」と「両手取引」です。
片手取引と両手取引
片手取引とは、仲介業者が売主と買主のいずれかと媒介契約 ?を結ぶことをいいます。つまり、売主と買主にそれぞれ別の仲介業者が存在するという状態です。
売主は売主側の仲介業者に物件の売却を依頼し、買主は買主側の仲介業者(客付け業者 ?)に物件の購入の手伝いをしてもらいます。
一方、両手取引とは、仲介業者が売主と買主の両方と媒介契約を結ぶことをいいます。売主と買主の間にひとつの仲介業者が入っているという状態です。
ひとつの仲介業者が、売主と買主の両方の手伝いをすることになります。
売主と買主の両方から手数料を得ることができる
両手取引の大きな特徴は、「売主と買主の両方から仲介手数料 ?を得ることができる」ということです。
両手取引をおこなった仲介業者は、売主と買主の両方の手伝いをするのですから、両者から仲介手数料をもらえるというわけです。
仲介手数料は成約価格 ?の「3%+6万円+消費税」です。売主と買主、どちらも同じ額の仲介手数料を支払うことになります。
たとえば、2000万円で売買がおこなわれたとすると、仲介手数料は71万2800円になります。
片手取引の場合だと、仲介業者が得られる仲介手数料は71万2800円です。売主側の仲介業者は売主から、買主側の仲介業者は買主から、それぞれ71万2800円を支払ってもらうことになります。
これが両手取引になると・・・もうおわかりですよね。2倍の142万5600円になります。
このように、仲介業者目線で考えると、両手取引は片手取引の2倍の手数料がゲットできるのでオイシイのです。
売主から物件の売却を依頼された仲介業者は、できることなら買主を自社で探し、両手取引を達成したいと考えるでしょう。それはとても自然なことです。
ところが、この両手取引をめぐって、業界内で様々な問題が起きているのです。
両手取引による弊害
両手取引をおこなうことによって、仲介業者が両者から仲介手数料をもらうこと、それ自体はまったく問題ではありません。
問題は、仲介業者が意図的に両手取引を狙おうとすることで、「売主が大きな損をする状況になってしまう」ということです。
そのような事例があまりにも多いので、業界内で問題になっているのです。
具体的には、両手取引によって売主がこのような損をしてしまう危険性があります。
- 売却の機会が減る
- 安く売却させられる
- 仲介業者から真実を伝えてもらえなくなる
売却の機会が減る
まず、両手取引を狙う仲介業者に物件の売却を依頼すると、「売却の機会が減る」という事態に陥ります。
仲介業者の立場になって考えてみましょう。
売主から売却を依頼された物件があります。なんとかこれを、両手取引に持ち込みたいと考えているとします。
両手取引を達成するうえで、邪魔な存在とは誰でしょうか?
両手取引が達成できなかったとすると、それは誰のせいでしょうか?
それは、「他の不動産会社」です。買主側の仲介業者ですね。
他の不動産会社が買主を連れてくると、両手取引になりませんよね。片手取引になってしまいます。
このように、両手取引を狙っている仲介業者にとって、他の不動産会社は邪魔な存在なのです。利益を奪っていく「敵」なのです。
では、敵から身を守るために、彼らは何をするでしょうか。
それは、「物件情報のクローズド化」です。他の不動産会社に情報を与えないようにするわけです。
これを囲い込み ?といいます。
安く売却させられる
仲介業者が両手取引を狙っていると、物件の価格がどんどんと下がっていくことになる危険性があります。
両手取引を達成するためには、他社経由で買主候補が現れる前に、自社で買主候補を探して売らなければいけません。「早く売る」必要があるのです。
そして、早く売るためには買い手に喜んでもらえるように、「物件の価格を安くする」必要があります。
自社が抱えている買主候補の顧客に、「大幅に値下げをする物件がありますよ!お買い得です!」と宣伝すれば、飛びつく人もいるでしょう。
そのために、仲介業者は売主の物件の値段を下げようとします。「値下げをしませんか?」と提案してきます。
売主が高く売りたいとお願いしていても、高く売る努力はしません。彼らが考えているのは「早く、安く」なのです。
仲介業者から真実を伝えてもらえなくなる
他社経由で高い価格で購入したいという人がいても、自社で見つけた顧客を優先して紹介する
弊害に対する改善
このように、両手取引を意図的に狙おうとすることによって様々な弊害が起きています。
売主や同業者をあざむく仲介業者が増えることにより、売却機会を失って大きく損をする売主がたくさん現れました。
売主が損をするというだけの問題ではなく、業界全体の問題です。
業界の健全化を図るために、いくつかの措置が施されています。
東日本レインズが利用規定を改定
このような事態を受け、2013年10月1日に東日本レインズが利用規定を改定しました。
「元付け業者(売主側の仲介業者)による正当な事由のない紹介拒否の禁止」という文言を追加しました。
簡単に言うと、仲介業者に対して「物件の囲い込みをおこなうことを禁止します」という注意喚起をしたということです。
買主側の仲介業者からの問い合わせに対して、契約中じゃないのに「契約中です」と虚偽の対応をし、物件の紹介を拒否する・・・といったことが当たり前のようにおこなわれていましたが、そのような囲い込みを禁止するということです。
この東日本レインズの利用規定改定の他にも、囲い込みに対する指導や処分規定の厳格化がおこなわれています。
まだある
だが
少しは減ってきているものの、まだまだ横行しているのが現状
利益が取れるので、営業マンに両手取引を奨励する会社も多い
「両手取引をおこないません」とする仲介業者
差別化
両手取引自体が悪いのではなく、両手取引をおこなうために囲い込みをしたり売主が損をする提案をすることが問題